成瀬課長はヒミツにしたい
「あれ以来、柊馬さんの顔も見てないんだよね……」

 真理子がぽつりとつぶやくと、卓也がタイムカードに滑り込む様子が目線の端に映った。


 卓也は息を切らしながらフロアを横切ると、部長と真理子に小さく挨拶をしながら椅子に座る。

 急いでパソコンの電源を入れる卓也の顔を、真理子はそっと覗き込んだ。

「卓也くん、大丈夫なの? 疲れてるんじゃない? 仕事大変なら、私も手伝おうか?」

 卓也は、心配そうに眉を下げる真理子を横目で見ると、小さく鼻で笑った。

「本当に、真理子さんって、お人好しですよね」

「え? どういう意味……?」

「言葉そのまんまの意味ですよ。あんまり人の事、信用しすぎると、いつか酷い目に合いますよ……」

 卓也の言葉に真理子が眉をひそめたのと同時に、部長のデスクで内線が鳴った。


 すると、軽やかに電話を取った部長の顔は、みるみるうちに青ざめていく。

 部長のぽよんとしたお腹でさえ、凍り付いていくようだ。
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