成瀬課長はヒミツにしたい
「真理子! 待て!」

 成瀬は小さく叫ぶと、ダイヤルを押そうとする真理子を抱きかかえ、その手を握る。

「柊馬さん、離してください。卓也くんは……今どきの子だけど、真面目で素直な良い子なんです。そんな事、するはずがない……」

 真理子は信じられない気持ちで、今にも泣きだしそうになっていた。

 成瀬は、そんな真理子の震える肩を、強い力でぎゅっと抱きしめる。


「お前が佐伯を後輩として、大切に育てて来たのは知ってる。これはまだ俺の推論で、事実とわかったわけじゃない。ただ……」

「ただ……?」

 成瀬の手に、さらに力がこもった。


「ただ、これが事実だとしたら、れっきとした犯罪だ。相手に動きを悟られてはならない……」

 耳元で聞こえる成瀬の声に、真理子は頭の中が真っ白になる。

 成瀬は真理子をソファに座らせると、静かに受話器を取った。
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