彼女はアンフレンドリーを演じている
居酒屋を出た二人は、いつもの流れで美琴の自宅前まで続く夜道を並んで歩き出す。
その空気は未だに気まずいままで、でも何がそうさせているかと問われると。
告白のタイミングがわからない上に、この空気を変えないと無理、と心が折れそうな自分の気持ちしか知ることができない美琴。
「(まだ、一緒にいたいのに……)」
本当は仕事の疲れなんか感じられないほどに、蒼太の事だけを考えていた。
いつもと様子が違ったのは、告白の事で頭がいっぱいだったから。
そう言えば良いだけなのになかなか口に出せなくて、ついに自宅マンション前に到着してしまう。
「……お、送ってくれてありがとう」
「美琴ちゃん」
「ん?」
ゲームオーバーのような気分を抱きながら、無理に笑顔を作って見せた美琴。
しかし、瞳に映した蒼太は切なげな表情を浮かべて、そしてゆっくりと口を開く。
「俺、今日は帰らないつもりで飲みに誘ったんだ」
「え……」
「覚えてる? 捻挫治ったら覚悟しておいてって言った日のこと」
「う、うん」
「ほら、もうこの通り治ったよ」
そう言って捻挫していた左手首を動かし、完治をアピールしてきた。
だから今日は、あの日の言葉を実行するために美琴を自宅まで送ってきたと正直に話す。
今まで一度たりとも下心を見せず、無事に家まで送り届けてきた、真面目な紳士を装っていた蒼太は。
今夜こそ正真正銘の送り狼と変貌を遂げて、美琴の全てを欲しているのだ。
「でも、疲れてる美琴ちゃんに無理はさせたくないから、今日は帰る」
「っ……蒼太くん」
「本当はすっごく我慢してるから、今度褒めてよ」
もっと傍にいたいし、触れ合って愛し尽くしたい。
でもこれは自分の我が儘だから、と手を振って見送ろうとする蒼太。
その姿を見た瞬間、強い寂しさと孤独感に襲われた美琴は。
マンション内に入るどころか、頭で考えるより先に蒼太へと勢いよく抱き着いていた。