彼女はアンフレンドリーを演じている
「……いやだ」
「え、美琴ちゃ」
「帰らないで、お願い……」
こんなに自分から素直に気持ちを表現する美琴が初めてで、我慢するはずだった蒼太の欲情は簡単に駆り立てられた。
そして抱き着く美琴の背中にそっと腕を回すと、恐る恐る確認を取る。
「……泊まっていいの?」
「……うん」
「え、抱くよ?」
流石に自宅に上がって二人きりの空間に閉じ込められたら、我慢できるはずがないと断言できる。
すると、ゆっくり顔を上げた美琴の表情が街灯に照らされて、その潤んだ瞳が蒼太の理性を徐々に崩していく。
恋愛で大きな傷を負い、社内恋愛恐怖症のせいで必要以上に人を寄せ付けず、無愛想を演じ続けてきた美琴。
そんな自分を、その傷も恐怖症もいつか消えてなくなると信じて、ひたすら傍で見守り想い続けてくれた蒼太に今、ようやく伝えることができる。
「……蒼太くんが、好きです」
これが社内恋愛になろうと、恋敵がたくさんいようと、蒼太の恋人になりたいと願ったのは自分なのだから。
「だから、良いの」
「っ!」
「蒼太くんだから、全部良いの」
そう言って再び蒼太の胸に顔を埋めると、自分とは別の、加速していく心臓の音が聞こえてきた。
勇気を持って応えてくれた愛しい人を前に、やっと想いが届いた蒼太は鼓動すらも喜んでいて胸を熱くする。
「……俺、ずっとずっと、美琴ちゃんがまた恋できるようになるのを待ってて」
「……うん」
「本当の気持ちを隠して、ただの同期を装って、我慢してたけど傍にいたくて」
「うん」
「それがやっと、全部意味があるものになったんだ……」
全身が震えそうなくらいに、嬉しさが込み上げてきた蒼太は。
過去の恋愛によるトラウマを乗り越えて、自分を選んでくれた美琴の背中を強く抱きしめて、優しく問いかける。
「俺と、社内恋愛してくれるってことで、良い?」
体温を分け合うような心地良さを感じて、静かに瞼を閉じながらこくりと頷いた美琴。
随分待たせてしまったけど、真面目を演じてきた蒼太と無愛想を演じてきた美琴が今、裸の心を通わせている。
秋の夜風が酒の酔いを醒ましても、この恋だけは決して醒すことができないほどに、強い絆が生まれた瞬間だった。