彼女はアンフレンドリーを演じている
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日が暮れると気温はグッと下がり、吐く息が白く舞っては夜空に消えていく中。
電車を降りて最寄駅から駆け出した蒼太は、自宅マンションへと急いで向かっていた。
荷解きも終え料理を作って待っているというメッセージは、既に電車の中で何度も読み返していて。
そんな美琴に早く会いたくてたまらない気持ちを抱きつつ、冷たい空気をかき分けながらひたすらに息を切らして走った。
「……はあ」
頬や指先を冷たくして、ようやくマンション前に到着した。
エントランスを通過しエレベーターに乗り込むと、徐々に心臓が高鳴っていくのを感じて思わず深呼吸する蒼太。
初めて迎える二人でのイブは、同期としてでも飲み友としてでもなく、恋人として過ごせるなんて。
そんな夢のような時間まで、あと数秒。
――ガチャ!
玄関ドアを開けると、普段は真っ暗な部屋に帰ってくることしかなかった場所が、今日は明かりがついていて。
それだけでも安心感を覚える蒼太の耳に届いてきたのは、こちらに向かってくる足音と優しい声。
「おかえり、蒼太くん」
「美琴ちゃん、ただいま」
後ろ髪を一つに束ねて出迎えてくれた美琴を確認するや否や、帰宅したばかりの蒼太はごく自然にその体を抱き寄せて暖まる。
そして、そのまましばらく離れなかった。
「……え、え?」
「ん? ただいまのハグだよ」
「な、長くない?」
「そ? 本当はハグだけじゃ足りないよ」
そう言って頬ずりしてきた蒼太との温度差と感触に反応して、思わず変な声が出そうになった美琴は慌てて体を押し返した。
拗ねる蒼太の「ちぇ」の声も聞き流して、赤く染めた顔がバレないように部屋の奥へと戻っていく。
「(ま、イブの夜はまだ長い)」
そう余裕の笑みを浮かべて美琴の後ろをついていく蒼太が、リビングに足を踏み入れる。
すると真っ先に視界に入ったのは、ダイニングテーブルに置かれたローストビーフや、煌びやかでお洒落に盛られたおつまみプレート。
そして、二つのシャンパングラスだった。