彼女はアンフレンドリーを演じている
「え、これ全部美琴ちゃんが?」
「うん……今日は同棲開始の記念日になるし、初めて二人で過ごすイブでしょ?」
「っ……」
「だから、ネットで調べてそれっぽく作ってみたんだけど」
味に自信はないと美琴が言いかけた時、不意に唇を重ねられて言いそびれてしまう。
触れるだけのキスを交わし直ぐに額を擦り合わせた蒼太は、少し照れているようにも見えて美琴の心をくすぐった。
「……俺のこと考えながら作ってくれたんだ?」
「そ、そうだよ……」
「早く会いたいって思いながら待ってた?」
「っ、そうだよ」
何故こんな恥ずかしい回答をさせられているのかわからなかったが、それを聞いて満足げな蒼太を目にすると心が温まるから。
つい正直な気持ちを、包み隠さず言葉にしたくなる。
そんな美琴が愛おしくて、再びキスをしようと顔を近付けた蒼太の口を、美琴は突然手のひらで塞いできた。
「っほら蒼太くん、手洗いしてきて!」
「えー、もう一回」
「料理、冷めちゃう」
「……はいはい、わかったよ」
目を細めた美琴の心中を察して、子供扱いされた蒼太は渋々洗面室に向かう。
そしてドアを閉めた途端、背を預けて大きなため息をついた。
「……はあ、俺耐えられるのか」
自分が提案した同棲の件は、思ったよりも早い段階で実現した。
しかし、いざ生活を共にする現実を目の当たりにすると不安を覚え始める蒼太。
今後、家には毎日美琴がいて、手を伸ばせば簡単に触れられる距離にある。
そんな状況で果たして、今まで通りの生活が送れるのだろうか。
「いや、無理だな」
自分が如何に独占欲の塊か、よくわかったところで今更それをやめられるはずもなく。
冬にも関わらず冷たい水で手を洗い、湧き上がった熱だけはここで鎮めておこうと努めることしかできなかった。