彼女はアンフレンドリーを演じている
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美琴の希望通り、割り勘で居酒屋の支払いを終えた二人は、寝静まる夜道を歩いていた。
「家すぐそこだから毎回送ってくれなくていいのに」
「女性を無事送り届けるのが男の役目だろ」
「ほんと、過保護すぎ……」
アルコール摂取のせいでほんのり赤く染まった互いの頬が、街灯に照らされる度に確認できる。
ゆっくりと歩幅を合わせて並んで進む中、恋人同士ではない二人の間は、もちろん一定の距離が保たれていた。
寄り添うことも、手を繋ぐことも許されないから。
「ま、ここ一年で“過保護”に昇格したなら安心した」
「どういう事?」
「初回は送り狼だーって警戒されてたから」
「っ……」
蒼太の気分次第で、不定期かつ一方的に呼び出される今日のような飲み会は、美琴を自宅マンションへ送るまでがセット。
一年前に初めて飲んだ日、居酒屋『めぐちゃん』から歩いて数分の自宅だというのに、それでも蒼太に送ると言われた時は、流石に警戒した。
「いつでも通報できる準備してたのも知ってたし」
「あの時は、疑ってごめんて」
「でも一年経ってわかっただろ? 俺が堅実な男だということが」
そう言って自慢げに自分を指差す蒼太に、今日やっと、美琴の表情が和らいだ。
「ふふ、自分で言っちゃうんだ」
「あ……面白かった?」
「少し」
「はは、そっか良かった」
会社では絶対に見せない貴重な表情を目にして、嬉しさが爆発寸前だった蒼太はバレないよう必死に感情を抑える。
美琴が社内恋愛恐怖症の内は、自分の想いを秘めなくてはならなかったから。
「でも……気をつけて」
「ん?」
自宅マンション前で足を止めた蒼太に気付き、一歩前に進んでしまった美琴が振り向いた。
さっきまで気分良さげに話していた明るい声が、急に低く小さく囁き始める。
「俺以外の男に家まで送ってもらうのは、ダメだよ」
「え……う、うん」
「絶対、ダメだから」
真剣な眼差しで念押しされると、そんなに自分は危なかしいのかな?と不安になる美琴。