彼女はアンフレンドリーを演じている
今のところ、飲み友と呼べる人も自宅を知る人も蒼太しかいないし、他の男にそんな事してもらう想定すらしていなかった美琴。
そもそも、あの災難を未だに引きずっているというのに。
「……そんな予定全く無いって」
「約束だよ」
「ほらもう家着いたから、送ってくれてありがとっ」
蒼太の背中をトンと押して、駅に向かうよう促した。
なのになかなか進もうとしないので、美琴もエントランスホールに入れずにいる。
「え、まだ何かあった?」
「……いや、何も無い、ごめん」
「??」
酔いが少し覚めてきて冷静になったのか、蒼太が微笑んで謝るが。
その表情は何処か寂しげで、何に謝っているのか美琴には理解できなかった。
「戸締まりしろよ」
「いつもちゃんとしてるから」
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみ、気をつけて帰ってね」
お互いに軽く手を振り、背を向けて駅方面へと歩いて行く蒼太を、ようやく見送る事ができた。
何か言い忘れでもあったのか、まだまだ飲み足りなかったのかは定かではないが。
いずれにしても、何かあるならまた飲みのお誘いがあり、何もなければ――。
土日が明けた月曜日からは、またいつも通り社内用のただの同期という二人の関係性に戻るだけ。
そう考えながらエントランスホールへ入った美琴は、直後に足を止めて振り向いた蒼太の存在を、知る由もない。
「……今日も、別れ難いって感じていたのは俺だけか……」
送り狼なんてなるつもりが全くなくても、好きな女性から誘惑されたら、自分はいつだって変貌してしまう自信はあるから。
こうして何事もなく美琴を送り届けられた今夜も、本来ならば自分で自分を褒め称えるべきなのに。
反面、男として見られていないから傍にいられるというこの状況を、壊したい衝動に駆られる瞬間がある蒼太。
「はぁ、いつまで保つかな〜俺の理性」
夢のような時間が終わってしまったと同時に、すっかり酔いが覚めてしまうと、毎回喪失感に襲われた。