彼女はアンフレンドリーを演じている
まるで居酒屋にいる時のようなノリの会話を交わすと、美琴の目の前に差し入れの缶コーヒーを置いた蒼太。
そしてデスクに未だ山積みとなるファイルの一つを手に取り、ペラペラと捲りながら話し始めた。
「課長はー?」
「……今日、お子さんの誕生日だから……帰ってもらった」
「美琴ちゃん優しい〜、課長って子煩悩だしな」
「へぇ、そうなんだ? でもそんな感じする」
今まで休む事なく作業していた美琴は、蒼太との会話で緊張感と逼迫感が自然に解けていき。
少しだけ穏やかな心を取り戻すと、表情も和らぎ口元が緩んだ。
そんな様子が見れただけで、十分に癒された残業後の蒼太は、ほっと肩を撫で下ろす。
その時、退勤したばかりの別部署の社員たちが、美琴たちのいる企画部前の廊下を通る。
「ワハハ! マジかよお前ー!」
「!?」
思わずビクッと体が反応した美琴に対し、自分と二人きりでいる事への警戒心が働いたと勘づいた蒼太。
その読み通り、笑い声を交えた会話が通り過ぎていくと、ここが社内だという認識を改めて持った美琴は。
「缶コーヒーありがとう」
「どういたしまして」
「じゃあ気をつけて帰って、お疲れ様」
蒼太の手からファイルをさらりと奪って、退社を促してきた。
こんな場面を他の社員に見られたら、絶対に面白おかしく、最悪交際疑惑として拡散されるかもしれない。
もちろんそれは美琴も困るが、人気者である蒼太の方が注目を浴びてしまうだろうし。
自分と交際疑惑なんて、確実にイメージダウンに繋がると心配した。
ささっと作業を再開させた美琴は、蒼太を突き放す態度を示して、それ以降はパソコン画面にしか視線を向けずにいる。
「……飲み友さえも、社内では他の社員と同類にされんだもんなー」
頬杖をついて独り言のように呟いた蒼太は、少し寂しそうな瞳で美琴の横顔を見つめるも、もう目が合うことはないし、嘆きも聞こえていない。