彼女はアンフレンドリーを演じている
それをわかっていた蒼太があえて口出しし、小山を美琴の下へと交渉に行かせたというわけだ。
「美琴ちゃんの資料は完璧なんだよ? 俺が担当なら」
「……」
「でも担当は小山だから、少しお手柔らかな戦略資料にしてもらえると助かるな」
「……赤字覚悟ということですか」
「うん、その代わり俺が別の仕事で黒字にするから、ね?」
「……わかりました」
成績優秀で、取引先からの信頼も厚い蒼太の強気な態度。
これに逆らう理由がなくなって渋々納得した美琴は、直ぐにパソコンを操作し資料の訂正作業を始めた。
その後ろ姿を微笑みながら見つめる蒼太に、小山がコソッと声をかける。
「香上さん、ありがとうございます」
「いや、俺が言い出した事だから」
「でもこうしてきてくれて嬉しいです! 一生先輩について行きます」
「美琴ちゃんにわざわざ修正してもらうんだから、小山も仕事頑張れよ」
「はい!」
傍から見れば、後輩思いの先輩が人肌脱いで問題解決したような光景だが。
「…………」
美琴を見つめる蒼太の眼差しが、周囲にバレない程度に熱を帯びている。
実は本日一度も社内で見かけていなかった同期の美琴に、直接会って話す口実が欲しかっただけ。
なんて理由が知られたら、小山の尊敬の念は直ぐに消えていくだろうなと、心の中で苦笑いを浮かべる蒼太。
もちろん、そんな気持ちは一ミリたりとも美琴に届いていないが、それでも良いと思っている。
今はまだ――。
「修正したらまた小山くんにメールで送るので、もう部署に戻ってください」
「え〜せっかくきたんだし、もう少し世間話でもしようよ、同期なんだから」
「修正作業で忙しいです」
「……わかったよ、じゃあ美琴ちゃんよろしくね」
「お疲れ様です」
蒼太は軽く手を振るが、美琴は振り向く事なくパソコン画面を見つめて作業をしていた。
その素っ気ない態度も今に始まったことではなくて、蒼太は気にすることなく小山と共に企画部を退出する。