彼女はアンフレンドリーを演じている




 営業部の二人の存在が消えた途端、沸々と込み上げてくる苛立ちを、必死に我慢している美琴。

 過去の売上データを元に完璧な戦略資料を作成して送ったのに、速攻で差し戻されるなんてと悔しさにも襲われた。

 ただ、同期である蒼太の考えも一理ある。

 だから尚更悔しくて、資料の修正作業に忙しいタイピングする指先からは、普段よりも強く大きな音が連続的に響く。



「(〜〜っ敵わない……!)」



 ただ顔が良い男というだけでなく、仕事ができてコミュニケーション能力も、身長も人気も高い。
 おまけに男女、先輩後輩問わず多方面から信頼されて、爽やかで明るく優しい真面目な……。



「……真面目?」



 不意に思い浮かんだその単語が引っかかり、ピタリと作業の手を止めた美琴。
 真面目さで勝負するならば、多分蒼太よりも自分の方が上だと思ったからだ。



「(蒼太くんは、真面目なフリしてるだけだし……)」



 敢えて誰かに告げ口するようなことでもないが、社内のみんなは騙されている。

 職場ではイメージアップばかり獲得する蒼太が、一歩外に出てしまえば意外と愚痴るし、毒舌で意地悪な腹黒だし、それに。



「(酔うと色々めんどくさいんだよ!)」



 タン!とEnterキーを押して、苛立つ気持ちに一旦区切りをつけた美琴。

 戦略資料の修正を早急に終えて、あとは見直しして問題なければ小山に再送信できる。


 次は文句言わせない、と担当の小山よりもそのバックについている、蒼太の憎らしい姿が目に浮かんだ。


 何でもそつなくこなしてしまう蒼太とは対照的に、人を遠ざけることと与えられた仕事に勤しむ自分。

 比較しては惨めな思いを抱くだけの美琴が、どうしても蒼太だけは完全に遠ざけることができずにいて。



「(あの時の恩があるし……)」



 一年前の春に今の企画部へ異動できたのも、営業企画課の仕事ができているのも。
 同期のよしみで蒼太が薦め、関わってくれたおかげだった。


 その後も部署内で一匹狼の美琴を何かと気にかけて、先程のようにわざわざ足を運んでくれるから。



「(やっぱり、蒼太くんは過保護だなぁ……)」



 小山に抱いた時と同じような感想が、美琴の脳裏に再生された。



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