彼女はアンフレンドリーを演じている




 せっかく手伝いに来た人間を、蒼太は私的な理由で嫌がり、門前払いしようとしていたから。



「(って、私も前に同じことしたわ……)」



 人のこと言えないな、と反省しながら会議室内に入った美琴は、徐々に鼓動も平常に戻り。
 ああ、やはり好きになってしまいそうな感覚は気のせいだったと安心して、蒼太の目の前までやってきた。



「この前の恩返しです、何でもやるので指示してください」
「…………」



 今は勤務時間中であって、二人の間の気まずい雰囲気なんて業務には関係のないこと。
 そう割り切った目で訴える美琴に、バツが悪そうな表情をしていた蒼太は、小さくため息をついた。



「じゃあ香上くん本当ごめんね」
「いいえ、それより急がないと遅れますよ」
「ああうん、冴木さんもありがとう! お疲れ様〜!」
「お、お疲れ様です……」



 二人を残して退勤することを申し訳なさそうに眉毛を下げて手を振る主任は、慌てた様子で会議室を後にした。

 陽気な人が去って気まずい空気に支配されてしまう前に、二人しかいないことを確認した美琴が、敬語をやめてそっと問いかける。



「主任、用事あったの?」
「……奥さんの誕生日、レストラン予約してるって」
「ああ、それで……」



 急いでいた理由がわかって納得した美琴は、以前にも同じような出来事があったのを思い出して、控えめに微笑んだ。
 一人で残業していた時、課長が子供の誕生日のために急いで帰宅したことで、蒼太が仕事を手伝ってくれたあの日――。

 すると、その様子を蒼太に見られていたことに気付いて、ハッとした。



「あ、夏生まれ多いなぁって……」
「……」
「な、なに……」
「別に……そこの印刷物、ページ順に留めてって」
「……うん」



 その後も素っ気ない態度の蒼太は、ノートパソコンの画面を見つめたまま作業を行う。

 会議室内が、やはり重苦しい空気になってしまった。



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