彼女はアンフレンドリーを演じている




 このままではおかしくなってしまうと蒼太の胸板を押し返して抵抗するも、全く歯が立たず。

 足の力が抜けていき、会議室のドアへと背中を預けた美琴の動悸は、激しさを増して未だにうまく呼吸もできない。


 これは、蒼太が自分を好きだったということなのか。
 それとも、どうでも良くなった自分への腹いせなのか。

 性急で荒くて感情任せのようなキスと、脳内の様々な思考と感情でぐちゃぐちゃの美琴は、自然と涙が溢れてきた時。

 ようやく唇を離した蒼太は、呼吸を乱したまま憂いを帯びた瞳を落とす。



――パンッ!!


 すると突然、乾いた音が会議室に響き渡った。

 俯きながら傾いた蒼太の左頬が赤く色づきはじめ、美琴の右手もじわじわと痛み出す。



「……はぁ、……っ最低」
「…………」



 どんな理由があろうとも、強引な口付けと抵抗を受け入れてもらえなかった怒りから、反射的に手が出てしまった美琴。

 同時に溢れていた涙がこぼれ落ちるも、それを直ぐに拭って蒼太を睨む。


 当然の報い、と反論する気は全く無かったが、もう後には引けない蒼太が静かに呟いた。



「……俺以外の男と、親しくすんな」
「なっ……」
「着飾って会うな、並んで歩くな」
「そ、蒼……」
「楽しそうに……笑いかけんな……っ」



 見苦しい嫉妬心だと、自分でもわかっているのに、言い出したら止まらない。


 これ以上美琴と一緒にいたら、今よりもっと傷つける行為をしてしまうと思った蒼太は。

 乱暴に会議室のドアを開け、困惑する美琴の顔をまともに見ないまま、その背中を無理やり押し出して退出させた。



――バタン!


 一人になった途端、後悔と自責の念が蒼太を包囲する。

 こんなことにはしたくなくて、今までずっと美琴の前では好意を持たない真面目な男を演じていたのに。

 他に向いているかもしれないその心を、どんな形であれ自分一色にしてやりたかったから――。


 ドアにもたれて、ずるずると力なく座り込んだ蒼太は。



「……好きになったり、すんな……」



 静まり返る会議室で項垂れると、決して届くはずのない最も伝えたかった言葉を、ドア越しに呟いた。



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