彼女はアンフレンドリーを演じている
一方、その頃――。
「……香上さん」
「んー?」
「冴木さんと同期とは聞いてましたけど、仲良いんですか?」
営業部に戻るため並んで廊下を歩いていると、小山にそんな質問を投げかけられた。
それに対し、まるで好きな食べ物を問われた時のような、柔らかくて朗らかな笑顔を浮かべる蒼太は。
「アレ、仲良く見えた?」
「え、あ、いいえ……」
「だろー? 俺はみんなと変わらず接してるけど、美琴ちゃんは噂通り誰にでも無愛想だから」
表情とは真逆の、どこか残念な報告に終わってしまった。
「そうですか。でももったいないですね」
「ん、なんで?」
「だって冴木さん、仕事もできて美人で真面目で、多分性格も根っから悪い人ではないのに……」
先程まで怯えていたのに、美琴のことをそんなふうに評価していた小山に、隣を歩く蒼太はひどく驚いていた。
女性社員には怖い冷たいと陰口を囁かれ、男性社員には愛想が無いと敬遠されている美琴なのに。
今年の春から一緒に仕事をしている小山に、美琴の隠された内面的な一部が、早い段階で暴かれようとしていたから。
「……小山、何でそう思う?」
「確かに怖い時もありますけど、なんていうか」
「何?」
「さっきの資料も、会社の利益だけでなく実は俺の飛躍も考えてくれていて……」
「…………」
もしも美琴が、小山ならできると期待して作成した資料だとしたら、今頃落ち込んでいるのは期待が外れた美琴の方かもしれない。
そう思い始めた途端、悪いことをしてしまったという罪悪感と、期待に応えた方がカッコよかったという悔しさが生まれてきた小山。
「香上さん、俺やっぱり冴木さんに謝っ……」
「いいんだよこれで」
「え、でも」
小山の肩を叩きながら落ち着かせようと声をかける蒼太は、初めて小山の“観察力と思考力”を侮ってはいけないと感じる。