彼女はアンフレンドリーを演じている




 そして、その翌日。

 恐る恐る出勤すると、いつもの職場の雰囲気は何ら変わりはなく、一先ず安心した美琴。


 もしかすると同期のよしみで、見て見ぬフリをしてくれたのか。
 それともラブホテルから手を繋いで出てきたところを、ギリギリ見られていなかったのか。

 いずれにしても今度姿を見かけたら、事実確認とお礼を伝えたいと思った美琴は。
 あまり関わったことのなかった同期の蒼太を、優しい人なんだと感じていた。




 しかしそれは、美琴の勝手なイメージの植え付けで。
 本当の蒼太はもっと、嫉妬深く毒舌で、意地悪な腹黒い人間なのだと。

 美琴の知らない間に、社内メールを使って屋上テラスに呼び出されていた長屋は、強く思うこととなる。



「長屋さん、俺のこと覚えてますか?」
「昨日教えてもらったよ、美琴の同期の香上蒼太くんだよな」
「……美琴、ねぇ」



 後輩を呼び捨てにしたということは、蒼太には二人の関係が知られている前提ということか。

 だっだら話は早い、と静かに口角を上げた蒼太は本題に入る。



「俺、営業部なんですけど、結構いろんな部署の人と話す機会があって」
「……?」
「だから、長屋さんのことも少し知っていますよ」
「え?」



 蒼太の話し方で嫌な予感がした長屋が、あからさまに表情を曇らせた。

 少し知っていると言っても、性格や仕事上の話であればまだセーフ。

 しかし、それがもしプライベートな内容だとしたら、確実にアウトだったから。



「長く交際している女性、いますよね?」
「!?」
「しかも同棲していて、結婚するとかしないとか……?」
「……それは……」



 美琴との交際を、社内では秘密にする約束をしていた長屋。
 そして長年交際している彼女がいることも、社内で話したことはなかったが。

 その彼女と街で買い物している時、口の堅い後輩とばったり会って立ち話をしたことが、一度だけあったのを思い出す。



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