彼女はアンフレンドリーを演じている
最近、結婚の話もするようになった彼女の存在は、その後輩が口を割らない限り知られることはない。
そして後輩から直接話を聞かない限り、彼女の存在を美琴に知られる心配もないと思っていた。
だから、独身最後の長屋のお相手として、なんとも都合の良い女にされてしまっていた美琴。
「どうします? 長屋さんのクズっぷり、社内中に流していいですか?」
「お、脅してんのか……!」
「まさか、俺は目撃したことと聞いた話を素直に他言したいだけです」
「っ……!」
「それを知った他の社員たちが、どう思うかは知りませんけど」
微笑んでいるのに目が笑っていない蒼太が、言葉とは裏腹に見えない圧力をかけてくる。
蒼太の言うとおり、目撃したことも聞いた話もどちらも事実で、その情報を制限することは、長屋にはできない。
しかしその二つの事実は、同時に知られると都合が悪い上、確実に自分にとって不利であることもわかっていた。
結婚を控えた女性がいるのに、社内の後輩に手を出した二股クズ野郎として、今まで積み上げてきた信望を失う。
そして最悪、仕事を失うことになるかもしれない、と大きな危機感に襲われた。
「……どうすれば、内密にしていてくれるんだ?」
情けないが、自分から蒼太に懇願するしかなくて、その場に膝をつき頭を下げた。
その無様な光景を見下ろす蒼太は、思惑通りに話が進んで心の中で黒い笑みを浮かべる。
「今すぐ冴木さんと別れること」
「…………わかった」
「二度と彼女に近付かないこと」
「っ……でも同じ部署内でそれは……」
今後も業務で関わることがあるだろうし、変に避けようとすれば周りに勘繰られる可能性もある。
それを考えると、彼女に近付かないという条件の難しさを感じた長屋だったが。
蒼太の無言の睨みを感じて、それすらも許さないのだと悟った。
「……わかった、二度と近付かない」
蒼太が用意した条件を受け入れた長屋は、長年交際している同棲中の彼女のことも、美琴のことも裏切る結果だけを残して。
その日のうちに、美琴を呼び出し真実を告げ関係を終わらせた。