彼女はアンフレンドリーを演じている
「はっ、だったらなんでデートしたりプレゼントあげたりしてんだよ」
「デート? プレゼント?」
美琴同様に、遼までもがしらばっくれるその姿で怒りが沸点に急接近した時。
二つの天ぷら蕎麦が到着して、どんとテーブルに置かれる。
「まさかお前、あの日駅前にいた?」
「…………」
「は〜ん、神様も意地悪だな〜」
割り箸を二つに分けた遼が、最初で最後のあの日あの瞬間を、よりによって蒼太に遭遇させるなんて、と運命の悪戯を感じていた。
そして豪快に蕎麦を啜りながら、またしても笑顔を浮かべる。
「それで身を引くようなら、俺が美琴とヤッても良いってこと?」
「っ……」
遼の視線が鋭く蒼太に刺さり、その心中を掻き乱してくる。
あの日に見たものが原因で美琴と距離を置こうというなら、他の男にとられても何も文句は言えないだろうし、そこまでの想いだったということ。
なのに蒼太は、割り箸を持ったまま微動だにせず、遼の視線を真っ向から受け止めるどころか、跳ね返す勢いで睨み返した。
「ほら、わかりやす」
「……遼が、美琴ちゃんを想ってるようには見えない」
「そうだよ、何度も言ってんだろ俺はお色気ダダ漏れで豊満な胸の女が好きだと」
「蕎麦屋でよくそういう事言えんな」
「お前は言わなさ過ぎ、見てて苛々する」
「…………」
遼の正直な言葉は、時折心を突き動かされる。
目撃した事実と二人の関係について問いただせば済む話を、憶測だけで納得し何も語ろうとしない。
美琴への気持ちを抱きながらも、積極性や貪欲さを隠して待つばかりだった自分。
認めたくはなかったが、遼には自分が思ってる以上に沢山のことを見透かされていて、多くは言わなくても背中を押される感覚があった。
だからこれ以上、否定し続ける方が無理な話なんだと、徐々に諦めがついてくる蒼太は。
大きなため息と共に、か細い声で白状する。