彼女はアンフレンドリーを演じている




 手の空いた店員を見つけて、美琴の好物であるたこわさと、数種類の焼き鳥を注文した。

 すると蒼太が突然、前を見据えたまま頬杖つき、独り言のように話し始める。



「ねぇ」
「ん?」
「……このままだと、なかったことになんのかな」
「何……?」
「またこうやって二人で飲めるのが嬉しい反面、でもなんか違う、とも思ってる」



 決して美琴には視線を向けず、ただ淡々と心中を整理するように語る。

 またこうして以前のようにサシ飲みできたことは嬉しいはずなのに、会議室での出来事をなかったことにされるのは。
 望んでいないし、正直困るから。



「俺、美琴ちゃんに許されないことした」
「っ……!」
「でも今更、待ってるだけの真面目な男を演じるつもりは、ないから」



 瞬きした瞳がゆっくりと美琴を捉えて、熱を帯びた視線を送ると美琴の体は簡単に緊張が走り、脈拍も上昇した。

 そして蒼太が何を言いたいのかも、今なら何となくわかってしまうが、まだ自分の答えは出せていない美琴は返す言葉がない。



「……もう、隠さないよ?」
「蒼……ッ!?」



 優しい問いかけと同時に、カウンターに置かれていた美琴の手を、蒼太の骨張った手のひらが優しく包み込んできた。

 その温もりも、憂いを帯びた瞳も、確かめるように囁く唇も。
 全部全部、美琴を好きだと宣言していて、もう隠さないと言っている意味を理解する。



「こ、こんな……ところでっ!」
「あ、ごめん。酒飲んだらちょっと、気持ち緩んだ……」



 居酒屋のカウンター席であることを一瞬忘れていた蒼太は、力の抜けた笑顔を浮かべてスッと手を離し、ビールを飲み始めた。

 幸い、賑わう客たちは各々楽しんでいて、二人のことなんて気にも留めていないが。
 だからこそ、二人の世界を作り出してしまった結果、蒼太の想いがダイレクトに届いてくる。



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