彼女はアンフレンドリーを演じている




 そりゃそうだ、とその場にいた小山も心の中でツッコミを入れていると、少しの間沈黙していた蒼太がようやく。



「そうですか……俺、実は上司に禁止されているんですよね、女性と二人きりで食事行くの」
「えっ……?」
「有難い事に、色んな方からお誘いはあるんですが、噂になると互いに困るだろうし仕事に支障が出ると良くないので」
「わ、私は大丈……」
「ごめんなさい、例外はないです」
「……わかり、ました……」



 どうやら蒼太は、営業部の上司にそんな禁止令を受けているらしい。

 色んな部署の女性から身も心もイケメンとして支持されている蒼太は、確かに社内の誰かと食事に行ったなんて噂になれば、他の女性達が発狂してもおかしくない。


 ただ、その禁止令は同じ部署の小山には初耳の話であって。
 温厚で滅多に怒ることのない、営業部で唯一の仏的存在である我らの主任が、はたしてそんな事を言い出すだろうかと疑問だった。


 いずれにしても、勇気を出して食事に誘った目の前の女性社員は、蒼太に断られたことになり気まずい空気に包まれる、と思いきや……。



「もう一つだけ、お聞きしても良いですか?」
「……はい、どうぞ」



 このままでは終われない女性社員は、最後の質問を用意していた。
 それも、蒼太の内心を騒ぎ立てるような――。



「どうして、冴木さんを下の名前で呼ぶんですか」
「え? ああ“美琴ちゃん”?」



 顔色ひとつ変えずに、わざとらしく強調して美琴の名前を口にすると、女性社員の表情が少しだけ引き攣ったのを、蒼太は見逃さなかった。

 美琴に対しての嫉妬と、二人は親密な関係では無いのかという疑念がダダ漏れ始める女性社員。


 それが蒼太の心を更に遠くへ行かせる行為な上に、排除される条件とも知らずに。



「俺の同期はみんな、下の名前で呼び合ってるよ」
「でも、冴木さんは“香上くん”と呼んでいます」



 めざとい人だな、と内心思いつつも、営業スマイルを崩さない蒼太が突然小山に絡み出した。



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