轍(わだち)〜その恋はお膳立てありき?
ホテルのレセプションにルームキーを返すと、会計などはなく難なく帰宅を許された。

滋子には後日お礼を言おうと思いながら、清乃は、ハッとして周囲を伺った。

あの人斬り秘書がどこかで監視しているのではないか、と思い立ったのである。

目に入る範囲には該当する人物はいなかった。

タカシとの絡みがなくなったので、監視対象ではなくなったのだろう、と清乃は推測する。

人斬り秘書は謎めいた人物であり、いつもの気が付くとそこにいることが多い。

初めて会った時に名乗られた気もするが、いつも気配を消していることが多いので、清乃が名前を覚えることはなく現在に至っている。

ロビーを出ると一面は銀世界であった。

幸いなことに、準備してあった衣類と一緒に置かれた靴は、滑り止め付きの雪道用ブーツであった。

どこまでが今回のイベント絡みのサービスなのか分からないが、なんとも痒いところに手が届く安心仕様である。

“家に帰り着くまでが遠足”らしいので、マンションに帰り着くまではフォローが入るのだろう。

ロビー前のロータリーには数台のリムジンやタクシーが見えたが、清乃は敢えてそこを通らずに、別の通路から公道へ出た。

せっかくの雪景色である。

人斬り秘書にうっかり遭遇することなく、美しい景色を少し堪能して帰ろうと考えたのである。

高級ホテルから、清乃の住むマンション(寮)までは、徒歩で20分程度、距離で言うと1.5kmくらいだろうか。

街中にあるので、歩いて帰ってもそれなりにウインドウショッピングができる。

起きてお風呂を満喫してからの移動のため、午前10時を過ぎており、ほとんどのお店が開店済みであった。

街中を歩きながら、清乃は、とある行きつけのアニメ関連ショップの前で足を止めた。

デカデカと店の正面に飾られているのは、先日まで、清乃が制作に関わっていた戦国系乙女ゲームの発売告知ポスター。

清乃を二徹、合計するとそれ以上、に追い込んだ超話題作であった。

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