轍(わだち)〜その恋はお膳立てありき?
寄り道
「せっかくの休みなのにいいのか?俺んちの家事で潰して」

「せっかくの休みだからこそですよ。私は与えられたチャンスは逃さない主義です」

狼犬《ウルハイ》いや千紘の自宅(作業現場)を見る気満々の清乃は、逃げられまいと、しっかり千紘の腕を組んだ状態で宣言した。

「社長から、清乃は食うことよりも寝ることを優先するって聞いたことがあるが、料理や掃除ができるとは意外だったな」

「何事も凝り性なので、気になったものは一通り、どのような仕組みで成り立っているのか実証しないと気がすまないんです」

人真似は得意だ、と豪語するように、清乃は創作以外は一通り何でもこなす。

学生時代や、ネットイラストレーターで稼いで暮らしていた時代は、アルバイトで居酒屋の厨房担当やホテルの清掃員などもやっていた。

生活していくという目的の上に成り立つ職業選択ではあったが、将来的に描くことになるかもしれないキャラの職場を知っておきたい、という魂胆も合わせ持っていた。

そんな清乃の話を聞く千紘は、料理創作アニメやグルメ漫画は多いが、清掃員が主役のアニメやゲームがあるのかは謎だな、と思っているが口には出さなかった。

「へえ、すごい経歴の持ち主なんだな、清乃は」

「着ぐるみに入ったり、メイドカフェでバイトしたりもしましたね」

遠い目をする清乃に、何か暗い過去でもあるのだろうか、と千紘は首を傾げたが、やはり口には出さない。

親しき仲にも礼儀ありがポリシーである千紘であった(しかしそれでは何も伝わらない)。

時は流れ、なんだかんだと清乃の恥ずかしい過去を語っているうちに、春日の運転する社用車は千紘の住むマンションに到着した。

いよいよ、憧れの狼犬《ウルハイ》のヲタク···いやお宅拝見である。

清乃は高鳴る胸の鼓動を抑えつつも、絶対に離されまいと、固く千紘の腕を握りしめるのであった。
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