轍(わだち)〜その恋はお膳立てありき?
「面白いものは何もないぞ」

そう言う千紘が案内してくれたのは、10階建てのマンションの10階角部屋、3LDKの綺麗なマンションだった。  

「随分間取りが広いんですね。彼女さんと一緒に住んだりしないんですか?」

ファミリー向けの間取りを見た清乃は、心に浮かんだ素朴な疑問を投げかけた。

抱き枕か添い寝が必須の千紘である。

今はキレイなこの部屋も、夜になると担当者(彼女)が現れて部屋を汚していくのだろうと清乃は思った。

「この部屋には基本、他人は入れない。ハウスキーパーは別だがな」

なるほど、神絵師でもある千紘は、自宅兼作業場であるこの場所には、必要最低限、誰も寄せ付けないようだ。

もしかしたら、ハウスキーパーが抱き枕になるのかも、と浮かびそうになる妄想を封じ込めて清乃は微笑んだ。

「了解しました。この瞬間より、わたくしハウスキーパー業務に専念することを誓います。絵は、絵は、ほんの少しでもいいから見せて頂きたいのが本音ですが」

「置いてあるパソコンに触れなければ、後は何をしても大丈夫だ。清乃のことは···信用している」

「···ぐは!」

パソコンは絵師にとって三種の神器の1つ。

他人様の物を勝手に触るなんてことは神をも怖れぬ冒涜行為だ、そんな事をする気は毛頭ない、と清乃は頷いた。

しかし、当たり前のことを淡々と告げた後に、突然のデレを打ち込んでくるイケメン千紘は心臓に悪い。

自分は突デレに弱いと知った清乃は、千紘に絡めていた腕をゆっくりと離し、千紘に気づかれないように小さく深呼吸をして呼吸を整えた。

「では、早速、部屋を案内しよう」

清乃の動揺をよそに、千紘は淡々とバスルームやトイレ、キッチン、客間を案内していく。

そして残り二部屋になった···。

そこで、清乃は千紘の新たな秘密を知ることとなる。

テンプレイケメンの更なるテンプレ。

清乃は、千紘の持つテンプレキャパシティの広さに、思わずうめき声を上げることしかできない。

どこまでも期待を裏切らない男、鷹司千紘。

清乃は、自分の興味を引き付けてやまない目の前の男性を見て、ハァと短いため息を漏らすのであった。

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