轍(わだち)〜その恋はお膳立てありき?
「お客様、ここではゲームを楽しみにして頂いていた皆様にご迷惑がかかります。あちらでお話をお伺い致しますのでご移動願えますでしょうか?」

駆け寄ってきた春日吏音の口角は上がっているが、目は笑っていない。

視線で人を殺せそうな雰囲気であるが、偽のチンピラカップルは一向に気にしていないようだ。

「あら、都合の悪いことはもみ消そうっていうわけ?後ろめたいことがないならきちんとした釈明をしなさいよ。それが消費者に対する礼儀ってもんでしょう?」

「だよなあ、俺たちは騙されてゲームを買わされそうになってるんだ。それなりの弁明は必要だよなあ」

こちら側には何も後ろめたいことはないのだから、説明することなど何もない。

だが、ネットで攻撃してきた一連の行為が、世間に一般にも公開されているものと信じて疑わないこの人達は、ここにいる全ての人が自分達の言い分を理解してくれているという前提で話を進めている。

何を持って礼儀や正当性を語るのか?

事情を知らない人々は、彼らの意味不明な言動と行動に、只々首を傾げるだけだった。

春日をはじめとした黒ずくめ隠密部隊が彼らを会場から連れ出そうとしたときだった。

「まあ、まあ、あなた方のお怒りもご尤もだ。ここは、私、村瀬映二の顔を立ててこの場を収めてはくれまいか」

と、大きなお腹を揺らして入ってきたのは、映二社長。

「あら、あなたは村瀬コーポレーションの社長じゃなかったかしら?こんな大物が出てくるなんて、いよいよグローイングは危機的なのね」

「ええ、地に落ちた評判のグローイングも渡瀬ITソリューションズも今後は益々立場を失って立ち行かなることでしょう。こうなっては仕方がない。私の娘夫婦の会社だ。我々村瀬コーポレーションが責任を持って彼らを買収し、あなた方への保証についてもなんとかしましょう。ここに来られた皆様にも本当に申し訳ない。私に免じてこの場は何とか腹におさめて頂きたい」

「私達はグローイングに社会的な制裁を加えてくれればそれでねえ···」

「だな、被害保証さえしてくれれば」

なんの茶番か、話が偽チンピラ共と村瀬サイドでどんどん進んでいるようだ。

呆気にとられていた会場の人々は、春日たち黒服の誘導によって、別の会場へ移動させられ始めていた。

もちろん設けられていたブースもスタッフも同様に、である。

あっという間にがらんどうになった会場に残されたのは、二人のチンピラ男性と勘違い令嬢らしき人物、村瀬社長、滋子、渡瀬、千紘、清乃、春日。

加えて、不思議そうにキョロキョロと現状を確かめるチンピラと勘違い令嬢(仮)&村瀬社長。

さあ、ここからはこっちのターン。

リベンジマッチの始まり始まりである。
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