轍(わだち)〜その恋はお膳立てありき?
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「お父様、これはなんの茶番かしら?今後一切、我々とは関わらないようにと先日お願いしたばかりだと記憶していますが?」

両腕を組んで仁王立ちする滋子は、薄っすらと顔に笑みを浮かべているが眉間にしわが寄っている。

眉間のシワは怒りを表すゲージでもあるのだが、知らぬ顔をしていると後で滋子に八つ当たりをされるのでそのままスルーという訳にはいかない。

清乃は思わず自分の眉間を擦って、取れなくなるぞ、と滋子に知らせようとしたのだが気づいてはもらえなかった。

「あ、あら、皆さんどこに行ったのかしら?私達も目的は果たしたことだし退出させてもらいましょう」

「そうだな。犯罪者に囲まれてちゃ胸糞悪くていけねえ」

散々余罪を重ねてきた人達が何を言うのか、と清乃は腹立たしく思ったが、春日が彼らの行く手を阻んだので溜飲が下がった。

「散々好き勝手行動してくれましたけど、私達が稚拙な嫌がらせに何の対応もしてこなかったと思っているんでしょうね?東原のお嬢様?」

「わ、私はそんな名前の人物ではないわ。人違いよ。さっさとここから出してちょうだい」

「いえいえ、あなた方にはたくさんの余罪がありますからアッサリと帰すわけにはいかないのですよ。そして本日、業務妨害という更なる罪を重ねて下さいましたね。飛んで火に入る夏の虫は、少々頭が足りないようですから」

「な、なんですって?ワタクシを馬鹿にするということは東原家を敵に···あっ!?」

「そういうところですわよ。お嬢様?」

フフフと笑う滋子とは対象的に、般若の顔で対抗する勘違いお嬢様は、完全に墓穴を掘った形である。

敵とはいえ、単純過ぎて逆に心配になるほどだ。

まあ、2回も千紘を侮辱した罪は、万死に値するから決して許しはしないけれど。

「ふ、ふん。どうせもう何もかも手遅れよ。一旦地に落ちた評判は回復するまでに何年もかかるわ。今日のイベントだって潰れたようなものだし、あなた達に再起する可能性は1ミリも残っていないのよ。ザマァないわね。オーホッホッホ」

本物の悪役令嬢とはこうやるのだ、と見せつけるような高笑いを披露した志津香お嬢様は自信満々に言った。

「本当に地に落ちたのならそうだったのでしょうね?でも、生憎こちらは最先端の技術を持つIT企業ですのよ。あなた方の動きは常に監視しながら、情報はこちら側でしっかり管理させてもらっていました。ご心配には及びません」

「なんですって?!情報を勝手に操作するなんて、明らかに違法でしょ?司法に訴えればあなた達なんて一溜まりもないわよ」

金切り声を上げる志津香は、先程までの余裕を失って、ワタワタと体を振るわせている。

「我々が情報を管理するのは企業として当然のこと。それよりもあなたが行ってきたネットでの誹謗中傷は、名誉毀損罪や侮辱罪に値する。そして今日のイベントへの乱入と暴言は、威力業務妨害や偽計業務妨害にあたります。いずれも訴えればあなたの負けは確定です」

淡々と罪状を言ってのける滋子は、さながら大江戸奉行みたいでかっこいい。

似たようなキャラを、千紘に頼んで戦国系乙女ゲームのセカンドシーズンに登場させてもらえないかな、と清乃は妄想を重ねていた。

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