轍(わだち)〜その恋はお膳立てありき?
「だから上手くいくはずねえだろって忠告したのに、お嬢は馬鹿だから」

「ケンジったら今更何言ってんのよ。私達には村瀬社長もついているのよ。こんな三流の面々に負けるはずはないわ」

「まあ、俺らは数日拘束されても慣れてはいるし、保釈金払ってもらってシャバに出られればそれでいいんで。次はもう少しまともな儲け話を期待してますよ」

頭を掻きながら欠伸をするその男性は、相棒と思しき男と共に、大人しく会場の外へと春日に連行されて行った。

初めから失敗するとわかっていながら犯罪に加担するとか、チンピラならぬただの愉快犯である。

「名誉毀損とか侮辱罪とか、大袈裟なのよ。本当のことを言ってるだけでしょ?信用されてないそっちが悪いのよ」

「悪意を持って相手を傷つければ、それが罪になるんだよ。そのモラハラ的な言動と思考、一度内省しなければ身を滅ぼすぞ」

「余計なお世話よ!とにかく、あんた達のイベントは潰してやったんだもの。誰がなんと言おうと私の勝ちよ。負け犬の遠吠えは聞くに耐えないわね。オーホッホッホ」

再三の忠告や助言を無視。

真っ黒な未来が待っているというのに、この期に及んでも志津香お嬢様は勝手な勝利宣言をして、満足そうに笑い声を上げた。

「このイベントは本物ではありませんよ。今日の参加者は皆、我々の身内で固めたサクラ。お喜びのところを誠に恐縮ですが、我々は誰一人として傷付いていない。心以外はね」

普段穏やかな拓夢も、今日ばかりは怒りを抑えられないようだ。

グローイングばかりではなく、渡瀬の会社も馬鹿にされたのだ。

その怒りは当然だと、清乃は頷いた。
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