不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。
「……な、南野さん!」
後ろ髪を引かれる思いで出て行こうとした私を呼び止めたのは、夕夏さんの少し震えた声だった。
ハーフタイムのときと同じようなその声は、私の動きをピタリと止める。
「あ、あのね?律とあたしが付き合ってたって……嘘吐いたこと、まだ謝れてなかったから、」
「え!?あ、いえ、そのことならもう……!」
「本当に、ごめんなさい!」
彼女は泣き顔を隠すように頭を下げて、それでも謝り続けた。
急いで傍に駆け寄って「顔を上げてください!」と言ったのだけれど、それでも夕夏さんは態勢を崩すことなく首を横に振ってそれを拒否する。
「図々しいお願いだってことは……っ、十分承知なんだけどっ」
「?」
「あたしっ、律の彼女にはなれなくても、卒業まではマネージャーっていうポジションで律のバスケを支えてあげたいって思うの。だから――……」
「夕夏さん?」
「だから今回のことっ、律に言わないで……うぅっ」