不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。









律くんと夕夏さんが恋人ではないと知ったとき、私は心の奥底で心底ホッとした。


2人の関係が嘘だと言われるまでずっと、なんの疑いも持たずに『お似合いだ』と思うくらいに彼女は律くんのとなりが相応しい人だったから。




「夕夏さん、私……実は律くんと過ごしていた幼少期の記憶がほとんどないんです」


「……え?」


「父を亡くしたショックで自ら記憶を消しているのだと、担当医の方には言われていて。ところどころ思い出す程度で、律くんと何をしてきたのか、最後に何を話したのか、どのくらい悲しませてしまったのか、全く分からないんです」






だから律くんの今の幼なじみが夕夏さんだと聞いて、今まで感じてこなかった感情が一気に沸き起こった。

初めて律くんのことが好きなんだと自覚もした。




だけど夕夏さんが律くんの彼女だと聞いてから、納得して諦めた私がいたことも事実で。


敵うわけない、律くんとの記憶も曖昧なのだから仕方がない、離れていた月日が長すぎたんだって、必死にいろんな言い訳を宛がって諦めようと躍起になるくらい、夕夏さんと律くんはお似合いだ。





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