エリート御曹司は極秘出産した清純ママを一途な愛で逃がさない
そのときだった。
出入り口の自動ドアが開き、私は近づいてくる人影に目を向ける。

"いらっしゃいませ"と言おうとした口は、開いたままの形で固まった。

「あ! 来てくれた」

亜紀さんが笑顔を向けた相手が、こちらに近づいてくる姿がスローモーションで見える。

清都さんだ……。
距離が近づくにつれて、心臓が早鐘を打つ。
今日は後任の事業部長は伴わず、ひとりだった。

「みなさん、お疲れ様です」

私たち三人の顔を順番に見て、清都さんはニッと口角を上げた。

「お、お疲れ様です!」

思わず声が上ずった。
恥ずかしくて、ガバッと大げさに頭を下げる。

「忙しいところ来てくれてありがとうございます。これ、白鳥部長に直接渡したくて」

そう言って亜紀さんが差し出したのは、今私たちの手もとにあるのと同じ、カフェバーの開店を知らせる紙だった。

「ありがとうございます。再オープンおめでとうございます。亜紀さんにはお世話になりましたから、必ず伺いますね」
「はい、お待ちしています。再オープンにあたってはいろいろと相談にも乗っていただき助かりました。ありがとうございました」

お客様の邪魔にならないレジの陰でふたりが会話を交わす様子を、私はソワソワしながらうかがった。

清都さんの顔がまともに見られない。
いくら記憶の奥に追いやろうとしても、あの夜の甘い余韻がどうしても蘇ってきてしまう。

頬が紅潮して熱く、亜紀さんや千花ちゃんに変に思われるのではないかと心配になった。

こんなふうに意識しているのは私だけだろうか。
清都さんは挙動不審な私には目もくれず、亜紀さんと談笑している。

すると、再び自動ドアが開いた。

「いらっしゃいませ」

すぐさま顔を向けると、若い女性がひとりで来店した。
身長は百七十センチほどありそうで高く、ぱっちりとした大きな目に長くカールされた睫毛が印象的な、まるでお人形のように整った顔立ちの若い女性だった。

あれ? この方ってもしかして……。

そう心の中でつぶやいた矢先、スタスタと姿勢よく歩く女性が私たちの目の前で足を止めた。

そして、私が付けているネームプレートを一瞥し、ビー玉さながらのとても美しく澄んだ瞳でこちらを見つめる。
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