エリート御曹司は極秘出産した清純ママを一途な愛で逃がさない
「あなたが、森名映美さん?」
私は衝撃でフリーズする。
圧倒的な美しさに気圧されたのと、その女性の正体に気づいたからだ。
「は、はい」
ワンテンポ遅れて返事をしたのとほぼ同時。
「乃愛」
清都さんが近づいてきて名前を呼ぶと、店内が一斉にざわめいた。
入店したときはまだ本人かどうか定かではなかったけれど、清都さんの一言で確信に変わったお客様たちが有名人の登場に色めきだつ。
「えっ、嘘。本物の支倉乃愛⁉」
口もとに手をあてた千花ちゃんが、独り言のようにつぶやいた。
彼女はクリスタルビールのCMにも出ている有名モデルで、SNSで絶大な人気を誇るインフルエンサー。
そして、清都さんとの間に縁談が持ち上がっている女性だ。
入り口近くの席に座っている大学生くらいの女の子ふたりが、中腰になり、顔を真っ赤にして悲鳴をあげた。支倉乃愛のファンなのだろう。
「あら、清都も来てたのね」
怪訝そうな表情の清都さんを、乃愛さんは頬を膨らませて見上げた。
「おば様からあなたたちの話を聞いてね、どんな女性なのか見に来たんだけど……」
かわいいネイルが施された人差し指をトントンと顎にあてた乃愛さんに、上から下まで観察される。首を傾げると、綺麗に巻かれた栗色の長い髪が揺れた。
おば様とは、おそらく清都さんのお母様のことだろう。
居心地が悪すぎて、私は体をこわばらせると目線を泳がせた。
「本当にこの人が清都のフィアンセなの?」
到底信じがたいといった様子で、乃愛さんが眉根を寄せる。
「そうだ、俺は今、こちらの森名映美さんと付き合っている。結婚を前提にな」
淡々と話す清都さんに肩を抱かれ、私はピシッと背筋を伸ばした。
予想もしていなかった緊迫した展開に、私は周りの反応を見る余裕もなくただ直立する。
「ふーん。私との結婚を反故にして、この人とねぇ」
乃愛さんが不満そうに唇を尖らせた。
曇りのない瞳に一心に見つめられ、額にじんわりと汗が滲んでくる。
「乃愛」
するとすかさず清都さんが、彼女をたしなめるように名前を呼んだ。