エリート御曹司は極秘出産した清純ママを一途な愛で逃がさない
焦りが胸中に広がった俺は、店長に就任した映美にアドバイスするという名目で会い、遠回しに恋人はいるのかとそれとなく尋ねた。

『店長になれたからには、恋人なんて作らずに仕事に専念するつもりです』

彼女の返答に安堵すると同時に、今度は別の危機が浮上する。

仕事に専念すると決めたこのタイミングで俺の思いを伝えては、映美を戸惑わせるのではないだろうか。
そのせいで職務が疎かになり、ミスしたりして自分を責めるとも考えられる。

なにより七年間も真面目に働く彼女を見てきた立場から、今は仕事に集中させるべきだと思った。

そして俺自身もアメリカでがむしゃらに働いて一回り大きくなり、戻ってきた暁には彼女に思いを伝えようという気持ちになっていた。

それでも二年間、俺を忘れてほしくない。

離れる前に映美の記憶に印象づけたいと考えた俺は、ちょうど両親から進められている縁談話を利用して、偽恋人を願い出た。

『私は、店長になってから清都さんに大変支えていただき、頼りがいのあるお人柄や優しさに惹かれまして……』

食事会の場で両親にそう言って、恥ずかしそうに頬を赤らめる映美の姿に、俺は柄にもなく浮かれた。

そして、父の突然の申し出に、驚きながらものあの反応。

『……あの、もし泊まるのであれば、構わないですよ?』

ぽつりとつぶやいた映美の言葉に俺は目をむいた。

こんなイレギュラーなときでさえ、俺を気遣う優しさと、変に度胸があるところにいい意味で面食らった。

せっかくだからもっと映美の新しい一面を知りたくて、好きな人はいないのかと尋ねる。

『わ、私は特には……』

映美は気まずそうにそう答えた。

俺は一瞬で失恋した。
思いを寄せていた彼女から、好意を持たれていなかったのだ。

意識されていないとわかると激しく落ち込みたくなったが、これまでの感謝と別れの言葉を伝えられ、胸にグッと迫るものがあった。

純粋な映美があまりにもかわいくて葛藤する。
このままなにもなく一晩過ごせば、明日の朝からはまたただの上司と部下に戻るだけだ。
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