エリート御曹司は極秘出産した清純ママを一途な愛で逃がさない
そんな荒んだ恋愛概念しか持ち合わせていない俺にとって、映美の存在はとても新鮮で尊いものだった。

思うだけで胸が熱くなったり会えないだけで切なくなったり、そんな初めての感情に戸惑う日々の中。

前店長の亜紀さんは退職する際、次の店長に映美を推薦した。

大学を卒業し、正社員となった彼女の働きぶりを事業部長として見ていた俺も、その人事には心から賛同した。
純粋に仕事に打ち込む映美ならきっと立派な店長になるだろう。

そう誇らしく思っていたとき、父からある提案を持ちかけられた。

買収したアメリカの大手蒸留酒メーカーの市場と販路拡大のため、海外事業部の責任者として最低二年間向こうに赴任しないかという打診だった。

そこで投資に見合う収益を得て海外展開を成功させ、日本に戻り次第副社長に就任させる方向で考えている、と言われている。

これまで飲食店事業部として、自社製品を提供するビアレストラン、居酒屋、カフェバーの企画から運営まで、全国で展開している数百店舗を統率する仕事にはやりがいを感じていた。

しかしうちの会社はこれまでにも海外の飲料メーカーを買収し、自社工場を建て、売上高を順調に伸ばしている。
今や売上高に占める海外比率は大きく、今後も新たな海外展開を進めていく必要があった。

任せられたからには挑戦したいという意欲が湧き、父には承諾の旨を伝えたが、ひとつ気がかりな点があった。 

アメリカに行けば映美と離れ離れになり、二年間会えなくなる。

映美本人は気づいていないが、彼女は異性のお客様やスタッフから人気があった。
酔っ払いに口説かれたり、スタッフのひとりからしつこくデートに誘われたりしていたのだ。

まあ、鈍感な映美は男のそんな下心には気がつかなかったけれど。

俺の目の届く範囲にいるうちは、男たちを牽制して映美に近づかせないようにできるが、二年間も離れるのは不安だ。

二年の間に彼女の心をときめかせる男と出会わないとも限らない。
ひょっとしたらすでにそんな相手がいる可能性だってある。

いや、浮いた話を耳にしたことはないが……。本人から言質を取ったりはしていない。
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