エリート御曹司は極秘出産した清純ママを一途な愛で逃がさない
深く傷つき疲弊しているであろう彼女にすぐに会いに行き、できればアメリカに行く前にもう一度ゆっくり会いたいと伝えた俺に、映美は首を縦には振らなかった。

『……私、もう会えません』

ようやっと聞き取れるくらいのか細い声で、そうさみしげにつぶやいた。

『偽恋人として清都さんに会うことは、できません』

しばらく沈黙が続いた後、俺は今回の乃愛ファンが起こした件を心から謝罪した。

そもそも俺の行動のせいでこうなったのだ。乃愛の知名度から予測して、もっと慎重になるべきだった。

痛恨のミスを心から反省し、これからは絶対に俺が守ると誓って映美の肩にそっと手のひらを置く。

けれども映美の目からは涙が滴り、テーブルに落ちた。その光景は、瞠目に値した。

『それでも私はもうこれ以上、偽恋人を続けられません』

絞り出すような苦しげな声は、聞いていると胸が痛んだ。
見つめ合っていたのも刹那、映美はフッと目線をはずす。

強引にでも抱きしめようと伸ばしかけた手を止める。今の俺にはそんな権利はない。

俺の心の中で、その日映美に会う前に吉野から電話で伝えられた言葉がリピートしていた。

『白鳥部長の婚約者の件で、森名店長はひどく傷ついています。どうか森名店長を悲しませないでください』

仕事に集中させるために思いを伝えることを諦めたのに、俺の怠慢で結果的に彼女を傷つけてしまった。

そもそも偽恋人なんて頼まなければ、映美を悲しませる結果にはならなかったのに……。

今はもうこれ以上沈痛な顔をさせないよう、彼女の気持ちを尊重するしか術はない。
俺は暗澹たる思いでその場を後にした。




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