エリート御曹司は極秘出産した清純ママを一途な愛で逃がさない
『誤解がとけたのならいいんだ。こうして光太にも出会えて、俺は幸運だよ』

光太に執着しているのなら、清都さんの振る舞いが変わったのも合点がいく。

『だから、早く跡継ぎがほしいんだよ。父がどんどん縁談話を進めてしまっている』

偽恋人を打診されたときも、そう言っていた。

入籍したいのは私たちを愛しているからではなく、会社のためだとしたら……。
そんな思惑が清都さんの中に隠されていたのだとしたら。

私と光太は、幸せになれるのだろうか。

「映美ちゃん?」

目の前を真っ暗にさせていた私は、亜紀さんに顔を覗き込まれてハッとした。夢から覚めた気分だった。

「ナポリタン、お待たせしました。お冷継ぎ足そうか?」
「あ、はい……ありがとうございます」

顔が痛いくらい強張って、うまく笑えない。

目の前に置かれたナポリタンから湯気が上るのと、グラスに透明の液体が注がれる様子を呆然と見つめる。

「わぁ、美味しそうー! いただきます」

千花ちゃんはトロトロの卵を崩すと、早速スプーンで掬って口に入れた。
美味しそうに頬張る顔を見て、私も思い出したようにフォークを手に取る。

「……いただきます」
「映美ちゃん」

パスタを口もとに運んだとき、亜紀さんから声をかけられて私は手を止めた。

「はい?」
「今度、一緒にプリズムに行かない? さっきふたりの話しが聞こえて、久しぶりに行きたくなっちゃった」

朗らかに笑う亜紀さんを、私はきょとんと見上げる。

「プリズム、ですか?」
「わー、うれしい! ぜひ来てください! ほかのスタッフたちも喜びます」

私が返事をする前に千花ちゃんが興奮気味に言ったので、行くと決定した流れになってしまった。

「じゃあ、また連絡するね。近々行きましょう」
「は、はあ」

足取り軽やかに厨房に戻る亜紀さんに、私は曖昧にうなずいた。

ここのナポリタンはすごく美味しいと以前食べたから知っている。
けれども今日は、食べても食べても砂を噛んでいるみたいで、まるで味がしなかった。




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