恋文の隠し場所 〜その想いを読み解いて〜
 書道教室の後は、恋文の解読の続きだ。

 今週もまた、いつものソファに横並びになり、先生と恋文を覗く。

「じゃあ、今日はここからですね」

「これは……『明るい』という漢字でしょうか?」

 指を差せば、先生は頷いた。

「これは『明け方に君を想う』ですかね」

 先生がそう言って、私は胸の中でガッツポーズを決めた。少しずつ、ミミズ文字が読めるようになってきた。

「でも、不思議なんですよね……」

「何でです?」

 先生が呟いて、思わず返してしまった。

「だって、誰かを想うのに明け方、ですよ? 普通は夜中に想って眠れないとか、そういう方が多いかなぁ、と」

「先生は意外とロマンチストなんですね」

 クスリと笑うと、先生ははっと頬を染めた。

「私は、夢に想い人が出てきたからだと思いました」

 そう、きっとこの手紙を書いた彼女も、したためた相手を想い夢に見たんだ。
 そう思ってしまって、ハッとした。顔が熱くなった。

 今朝見た淫らな夢は、私の恋心――?

「そうか、でもそれもロマンチックですね」

「ふぇ!?」

 思わず変な声が出た。
 先生はケラケラ笑ったけれど、私の胸はバクバクと高鳴る。

「その昔、誰かが夢に出てくるというのは、相手が自分を慕っているからだと思われていたんです。相手が自分を想うあまり、夢の中にまで出てくる、と」

 その理論でいくと、先生が私を想うあまり、私の夢に出てきた、ということになる。
 あまりに都合のいい解釈に、思わず笑ってしまう。同時に、そんな諺があったような気がするなと、脳内を探ってみた。

「夢枕に立つって、そういうことですか?」

 そう、そんな言葉だった。と思ったのに、先生はケラケラと笑い出す。

「あっはっは! 宍戸さん、相手を慕っている人は夢枕には立ちませんよ。『夢枕に立つ』というのは、生霊の呪いとか、故人のお告げのことを差すんです」

 恥ずかしい。恥ずかしすぎる。穴があったら入りたい。

 かぁぁと耳まで熱くなり俯くと、「すみません」と先生に謝られた。

「でも、夢に宍戸さんが出てきたら嬉しいですね」

 ドキリと胸が高鳴った。それって――。

「こんなふうに、夢の中でも笑わせてくれるかなぁって。楽しい夢が見られそうです」

 先生が爽やかな笑みを向ける。
 好きだなぁ、と思ってしまう。
 だから、つい言ってしまった。

「私は、今朝見ましたよ。……先生の出てくる、夢」
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