月下の逢瀬
休日のせいなのか、水族館は少し混んでいた。


「お。ちょうどイルカのショーの時間だ。行ってみようか」


入口の掲示板を見た先生が、あたしを促して歩き出した。
ショーは人気があるのか、会場に向かうに連れて、人がどんどん増えていく。


「っと。はぐれたら困るな。椎名」


先生が、ぐいっとあたしの手をとった。


「ここ、持ってな」


先生のシャツの裾を握っておくように言われる。


「え? あ、の」


「腕を掴んでろって言うより、マシだろ?」


にこりと笑って言う先生。

確かに、そうだけど。
躊躇っていると、背中をどんと押されてよろめいた。


「ほら、危ないから、持ってな」


「すみま、せん」


指先でそっと掴むと、先生はうん、と頷いた。


「少し、前の方まで行ってみようか。せっかくだから、よく見える場所を探そう」


「はい」


先生の後ろをついて歩きながら、返事をした。


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