月下の逢瀬
「――あーあ。結構濡れちゃったな」


「ですね。でも、すごく面白かった」


ショーが終わり、あたしたちは急いで買ったタオルで、濡れた頭や服を拭いていた。
プールの近くの席まで行けたのはよかったけれど、イルカが跳ねる度にしぶきが舞って、思いのほか濡れてしまったのだ。


「今のショーって、手が込んでるよな。昔は、あんなに凄い芸はしてなかったと思うんだけど」


「そうですね。あたしも、イルカなんて子どもの時以来ですけど、びっくりしました」


ごしごしと髪を拭いていると、先生が嬉しそうに笑った。


「? どうか、しました?」


「いや。ようやく、本当に笑ってくれたから」


「え……」


「さっきまではさ、ココにシワがくっきりあった」


トントン、と自分の眉間を指す先生。


「えっ? シワとかできてたんですか?」


「椎名は、表情が豊かだから」


タオルを首にかけた先生の言葉に、首を傾げた。


「そんなこと、初めて言われました」


前に、結衣に真緒は肝心なところの感情が掴めないと言われたことがある。


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