月下の逢瀬
前に付き合ったあの人からも、真緒はクールだな、とか言われたし、自分でも感情をあまり表に出さない方だと思っていた。


「豊かだよ。くるくる変わって、可愛い」


あたしの乱れた髪を、指先で梳いた先生が言った。
耳の後ろから、首筋に流れた男の人の指に、体がびくりとなる。


「ほらね。今は、驚いた顔してる」


「かっ、からかわないで下さいっ!」


まだ毛先に絡む先生の手を払うように、頭を振った。


「と。ごめん、ごめん。さあ、園内をまわろうか。
とりあえず、屋外から行こう。この天気だからすぐに乾くよ」


勝手に赤くなった顔を、先生から逸らすと、先生はくすくすと笑った。
ほら、行こう。とあたしの頭を再び撫でて、先を歩き出す。


何か、調子を狂わされるな……。
ゆったりと歩く背中を見つめる。


今日の先生は、この間みたいな無理やりな様子は全然なくて。
優しくあたしに接してくれてるのが分かる。
これが、本当の先生なのかな?


「椎名ー? 何ぼんやりしてる」


「あ、はいっ」


立ち止まって振り返った先生に、慌てて駆け寄った。


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