月下の逢瀬
「――さて。楽しんでもらえた?」


あれから食事をし、園内の残りを見てまわってから、水族館を離れた。


「はい」


「よかったよかった」


「あ、でも。
先生が言っていた行きたいところって、ここじゃないんですよね? どこなんですか?」


「ここから近いんだけどね。
うーん、墓参り、かな」


「墓参り、ですか?」


さっきちらりと話に出た、お兄さんのお墓なのだろうか?
何でまた、あたしを連れて行くんだろう。


「ちょっと付き合って欲しかったんだ。一人で行くのは、ね……」


先生が小さく笑った。
その笑顔は、何故だか辛そうに見えた。

亡くなったというお兄さんを、思い出したのだろうか。

あんまり、色々聞いたら悪いような気がして、あたしは黙って窓の外を見た。

道路は海に平行していて、光を反射する水面が見える。
夏ならば、海水浴をしている人たちがたくさんいただろうけれど、この季節は海岸も閑散としていた。


「椎名は、海は好き?」


「眺めるのは好きです。泳いだりするのは苦手なんですけど。
プールと違って、波があるでしょう?」


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