月下の逢瀬
しばらくそうした後、おもむろに先生が立ち上がった。

振り返ってあたしを見た顔は、ぎこちない笑みを浮かべていた。


「いきなり、こんなトコ連れて来られても困るよな。悪い」


「……いえ」


「一緒に来てくれて、ありがとな」


大きく伸びをして、深く息を吐く。


「ここにいるのはさ、俺がずっと好きだった人なんだ」


少し緊張した声は、わざと明るいフリをしているように聞こえた。


「で、兄貴の恋人、愛人だった人でもある」


「…………え?」


どういう意味なのか理解できずに、顔を見た。


「向こう、行こうか。展望台になっててさ、ベンチもあるし」


すたすたと歩きだした先生についていく。
お兄さんの恋人で、愛人。
先生はその人が好きだったの?


墓地の先は木々が茂っていて、そこを抜けると、街並みを見下ろせる開けた場所に出た。
ペンキの剥げた古いベンチが二つだけ並んでいるだけ。
けれど、気持ちよい風が、短く刈られた草を撫でていく、静かで落ち着く場所だった。


「なかなか綺麗だろ? ほら、海も見えるし」


< 122 / 372 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop