月下の逢瀬
「それでいいのか。椎名はそれで納得できる?」


「あたしのわがままで、たくさんの人に迷惑がかかるんだよ?

何より、玲奈さんを最悪の傷つけ方をしたあたしには、理玖を失うことが罰なのかもしれない……」


これ以上あたしが理玖を望めば、おばさんや、理玖の家の会社で働く人たちにまで迷惑をかけてしまう。
それに、玲奈さんを再び、傷つけてしまう。

もう、自分の感情のせいで人を傷つけるなんて、嫌。
誰かの苦しみや涙の上に立つ幸せなんて、きっとそれは幸せなんかじゃないよ。



それなら。

二人で過ごした夜の狭間の時。

あたしの一方的な気持ちだけで存在していたと思っていたあの時間が、
想いが通じ合っていた確かな逢瀬だったとわかったそれだけで、十分じゃない。

理玖に愛されていたという、その事実だけで、満足だよ。


< 310 / 372 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop