転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします


「なぁ、名前なんていうの」


腰を折り、私に目線を合わせて尋ねてくる彼に、思わず一歩後ずさる。


「…結局ナンパですか」

「いや、せっかく仲良くなったから聞いておこうと思って」

「…え?」


あれ、私達っていつから仲良くなったんだっけ。

確かに普通初対面の人にしないような重い話を聞かせてしまったけれど。この人の仲良し基準は、少し低い気がする。


「仲良く…?」


若干引き気味の私を余所に、彼は「もう仲良しだろ」と破顔する。その屈託のない笑顔が今の私には眩しすぎて、無視してこのまま帰ろうと思った。

けれど、もしここで名前を言わなかったら、このまま家までついて来るのでは?となぜか変な考えが頭をよぎった。

きっともう二度と会うことはないだろうし。名前を教えたところで、特に何の問題もないはずだ。


「…さら」

「え?」

(みさき) 紗良(さら)です」


半ば諦めモードで口を開いた私に、男は何故か目を大きく見開く。もしかすると、私がこんなにすんなりと名前を教えると思わなかったのかもしれない。

…失敗した。言うんじゃなかった。


「…もういいですか」

「待って」


踵を返そうとした私をすかさず呼び止めた彼は、突如手を伸ばして来たかと思うと、私の手からジーマの瓶を奪った。

「あ、それ私の」と声を掛ける暇もなくその瓶を口に運んだ彼は、残り僅かだったお酒を一気に飲み干す。

その様子をただポカンと見つめていれば、口から瓶を離した男はそのまま私と目を合わせ「岬 紗良」と馴れ馴れしく私の名前を呼び、続けて口を開いた。


「転生したつもりで、俺の秘書兼恋人になってみる?」


……………はい?

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