転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします

「いつものこと…?」

「近所のちよこばーちゃんが急に目の前でズッコケるから、おんぶして連れて帰ってた」

「えっ、そんなスーツ姿でよくおんぶ出来たね」

「ばーちゃん軽いからな。でもお陰で汗かいたわ」


お父さん、汗臭くない?と首を傾げる父は、相変わらず人助けが好きだ。陰で“町内のスーパーマン”と呼ばれるくらいには、常に誰かに助けを求められている気がする。

でもまさか、こんな日まで人のために動いて帰ってくるとは思わなかった。


「…なんか気が抜けちゃった」

「え?」


汗だくでお母さんに「お茶ちょーだい」と問いかけ、すかさず「自分で入れなさい」と返されるお父さんを見て、緊張の糸がほぐれてしまった。

さっきまで涙を零していたのが嘘のように心が落ち着いている。どうやら私の家族には、緊張感というものがないらしい。


「お父さんはほんと、相変わらずだね」

「え?何が?」

「お人好しというか、なんというか…」


ぽつりと呟いた声は、どうやら父の耳に届いていたらしく、言い終えた私を見て父はゆるりと口角を上げた。


「お人好しでいいんだよ。人を大事にしていたら、いつか自分に返ってくるんだから」


そう紡いですぐにコップに注いだお茶を一気飲みした父。ぷは、と声を出してコップを離すと、気合いを入れるように「よし」と呟いた。


「そろそろ出発しようか」


その言葉に、ごくりと唾を飲み込む。

一度深く深呼吸した私は、両親に続いて家を出ると、待ち合わせ場所のレストランがあるホテルへと向かった。

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