転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
これが全て夢ならいいのに。
このお見合いも、逸生さんの婚約も。もう何もかもが夢で、この夢から覚めた時、隣に逸生さんがいてくれたらいいのに。
──そう思うのに、背中に感じるひんやりとした感覚が、これは現実だと私に言い聞かせる。
このまま逃げたらどうなるかな。過保護な両親も、さすがに怒るよね。せめてギリギリまでここにいるのは許してくれるかな。
「…はぁ」
深い溜息を吐きながら、そっと自分の体に視線を落とす。
せっかく買ったワンピースも、時間をかけたメイクも、なんだか恥ずかしく思えてきた。どうせ気合いを入れるなら、逸生さんに見てもらいたかった。
往生際が悪い私は、ここにきてもまだそんな儚い願望を抱いてしまう。
こんな時こそ、転生出来たらいいのに。
ふと頭に浮かんだバカみたいな発想に、思わず苦笑した。
そういえば逸生さんと再会した日も、私は転生しようとしてたんだっけ。普通に考えれば有り得ない行動だけど、私はあの日、そのバカげた発想に救われた。
──それなら、今回も…。
ほんとバカだな。そう心の中で呟きながらゆっくりと立ち上がった私は、背中を預けていた柱と向き合うように立った。
あの日の電柱よりも、遥かに立派な柱にそっと手を添える。ゆっくりと目を閉じ、コツン、と額をそこにくっ付けた。
ひんやりとした感覚が、今度は額に触れた。このまま勢いをつけて頭をぶつけたら、転生は出来なくてもお見合いはナシになるかもしれない。
そんな淡い期待を抱きながら、一度深く深呼吸した────その時、
「オネーサン、そこで何してんの」
聞こえてくるはずのない声が、鼓膜を揺らした。