転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
──どうして彼がここに?
いや、きっと気のせいだ。だって彼がこんな所にいるはずないもの。
もしかして頭をぶつける前に転生したのだろうか。それとも、会いたいという願望が強過ぎて幻聴が聞こえてしまったのか。
聞こえるはずのない声に、すぐに顔を上げられなかった。
「もしかして、また転生しようとしてる?」
再び耳に届いた声に、思わず息を呑んだ。
それでも俯いたままでいる私に、足音が徐々に近付いてくる。
「それくらいの衝撃じゃ、転生出来ないって学んだんじゃないのかよ」
声だけで頭に浮かぶ。困ったように笑う彼の顔が。
「それとも、大事なお見合いにあのでっかいたんこぶ作って出席する予定だった?」
心臓が、ドッドッと音を立てて脈を打つ。
彼の声が近くなるにつれ、柱に添えている手が震え、目頭に熱がこもる。
「まぁ、俺はそれでもいいけど」
私のすぐそばで止まった足音。その瞬間、ムスクの香りが鼻腔を擽った。
「──紗良」
名前を呼ばれ、ゆっくりと目を開けた。
「やっと会えた」
穏やかな声音を聞きながらおずおずと顔を上げれば、スーツを身に纏い、優しく目を細めた逸生さんと視線が重なった。