転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「…なん、で…」
こんな所にいるはずがない。きっとこれは夢だ。
彼を視界に捉えても、まだ目の前の現実を信じきれないでいる。
すると逸生さんは、思考が追いつかず唖然とする私にまた一歩近付くと、おもむろに手を伸ばし、私の額に優しく触れた。
「良かった。無事だ」
懐かしいその熱が触れた瞬間、色々な感情が込み上げてきて、目頭が熱くなったと同時にみるみる視界が滲んでいく。
においも、声も、全てが私の記憶に残る逸生さんのままだった。彼に触れられたところが熱を帯び、身体も心も満たされいくのが分かった。
「…逸生、さん?」
「…うん」
「…ほんとに、逸生さん、ですか?」
──うん。ぎこちなく言葉を紡ぐ私に、逸生さんは屈託のない笑みを浮かべながら相槌をうつ。そして私の額に触れていた手をゆっくりと下に移動させた彼は、今度は私の横髪を掬って耳に掛けた。
「どうして、ここに?」
伝えたいことはいっぱいあるのに、口をついて出たのはそんな言葉だった。
だって、一瞬私のお見合い相手が逸生さんなのかと思ったけれど、確か百合子さんからのメッセージには、婚約者は松陰寺さんに決定したと書いてあった。
ということは、たまたまここで会社関係のパーティーが行われていたのだろうか。それともここは九条グループのホテルで、偶然視察に来ていたとか?
でもさっき、逸生さんは“大事なお見合い”と確かに言った。てことは私のお見合いを把握していたということになるけど、私は今日お見合いすることを誰にも伝えていない。
それなのに、どうして…。
混乱しながらも弱々しく尋ねる私に、逸生さんは困ったように笑いながら口を開いた。