転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします

「話せば長くなるから、後でゆっくり説明する。とりあえず行こう」

「えっ…と、どちらへ?」


質問に答えず、少し焦った様子でどこかへ向かおうとする逸生さんの袖を咄嗟に掴み、思わず怪訝な目を向けてしまう。

すると逸生さんは、腕時計を一瞥してから私に視線を戻すと、ゆるりと口角を上げた。


大事なお見合い(・・・・・・・)。ほら、もう時間がない」

「えっ……え?!」

「とにかく急ごう。遅刻したら親父に何言われるか分かんないから」


悪戯っぽく笑った彼は、状況が飲み込めずテンパる私を余所に、急かすように私の腰に手を添えてレストランの方へ誘導する。

もう何が何だか分からず逸生さんに引かれるまま歩みを進めつつも、こんな時ですら腰に触れているその熱に意識が集中していた。

これから何が起こるか分からないという不安よりも、“逸生さんがそばにいる”ということが嬉しくて、心臓が鳴り止まなかった。







「岬さん、ご無沙汰しております。その節は大変お世話になりました」

「いえこちらこそ、九条さんお久しぶりです。娘がそちらでお世話になっていたとも知らず、ご挨拶遅れて申し訳ありません」


父と、逸生さんの父親である社長の会話を聞きながら、やっぱり私の頭の上にはハテナがいっぱい浮かんでいた。


お見合いの席、私の目の前には逸生さん。
その隣に並ぶ逸生さんのお母さんと社長。彼のご両親をこうしてまじまじと見るのは勿論初めてだ。

それなのに、私の父は何故か社長に向かって“お久しぶりです”と放った。しかも社長が、私の父に“お世話になりました”なんて言うから、余計に訳が分からなかった。


「シゲさんとはたまに連絡を取っていたのですが、肝心なお話を伺っていなくて…」


父はそう言うと、最後に「お恥ずかしい話です」と苦笑しながら付け足した。


──シゲさんって、一体誰?

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