転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
話についていけていないのは私だけなのか、ぽかんとする私の横で母はニコニコしながら相槌をうっている。
視線を泳がせながら今度は正面にいる逸生さんを視界に捉えると、彼もまた穏やかな表情で私の父を見ていた。
「把握出来ていなかったのは私と逸生も同じです。父ひとりだけが気付いていたようなのですが、ご存知の通り彼は少し変わった人間でして…」
バツが悪そうに視線を伏せた社長に、父が「シゲさんらしいですね」と笑う。その会話を聞いて、やっと“シゲさん”が誰なのか分かった。
確か会長の名前は九条 茂男さんだ。入社したばかりの時、小山さんから貰った資料に書いてあったのを覚えている。それに今、社長はそのシゲさんのことを“父”と言った。だから“シゲさん”は会長で間違いないだろう。
でも、シゲさんの正体が分かっても父との繋がりが謎のままだ。どうして父は会長と知り合いなの?しかも連絡まで取り合っているというから不思議で仕方がない。
「兄も驚いていました。まさか娘が専務の秘書をしていたなんて」
そう紡いだ父は「娘は何も教えてくれないし」と横目で私を捉えながら唇を尖らせる。普段超がつくほど過保護な父に冷ややかな目を向けられて、咄嗟に「ごめんなさい」と零せば、ふいに私に視線を移した逸生さんと目が合って、思わずドキッと心臓が跳ねた。
話に集中したいのに、こんな時ですら彼に心を奪われる。約1ヶ月ぶりに見る彼の笑顔は、想像以上の破壊力だ。
ただでさえ初めてのお見合いに緊張しているのに。相手が逸生さんだからか、情緒が忙しい。