転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします

「そんな感じなので、数日前シゲさんから連絡いただいた時は本当に驚きました。切羽詰まった感じで“会いたい”と仰るので何事かと思えば、専務であるお孫さんを連れて、どうしても娘とお見合いがしたいと…」

「その件に関してもご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。しかもそれだけでなく、今日も急なお願いにも関わらずこうしてスケジュールを合わせていただいて、何とお礼を言ったらいいか…」

「いえ、私は嬉しかったですよ。まさか娘をこんなにも想ってくれている人が、すぐ近くにいたなんて。あの日私は、間違いなく彼の言葉に胸を打たれました」


頭の中で理解する前に、父と社長はどんどん話を進めていく。未だ状況が飲み込めず困惑する私を余所に、社長は逸生さんに視線を移すと「逸生、改めてご挨拶しなさい」と声を掛けた。

「はい」と反応した彼は、姿勢を整え、真剣な面持ちで父を真っ直ぐ見据える。

その表情はオフィスで動画を見ていた時とはまるで違った。専務という肩書きがピッタリで、驚くほど落ち着いた雰囲気を醸し出していて、初めて見る彼の顔に思わず見入ってしまった。


「九条 逸生と申します。先日はお忙しい中貴重なお時間を割いていただきありがとうございました」


そう言って深く頭を下げる彼を見つめながら、やっぱり頭は混乱していた。

彼らの会話からして、父は私の知らない間に逸生さんに会っていたのは何となく分かった。でも、いつどこで?お父さんがひとりで出掛けた日なんてあったかな。


「…あ、」


誰にも聞こえないくらい小さな声が漏れたと同時にふと思い出したのは、数日前、母に買い物に誘われた時のこと。

父はどこに行ったのかと母に尋ねると、“今日は1日出かけてくる”と言ったきり帰ってこないと言っていた。

恐らく、父はあの日に逸生さんと会長に会っていたんだ。

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