転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「…私は………」
──逸生さんと一緒にいたい。意を決してそう伝えようとしたけれど、結局声にはならなかった。
本当は今すぐにでもその手を取りたい。逸生さんのそばにいたい。私の気持ちは、彼と離れてからもずっと変わっていない。
けれど、逸生さんと似ているようで似ていない社長の目を見ると、どう答えるのが正解なのか分からなかった。
社長はどちらかといえば副社長と似ているのか、目に温度を感じない。たまに見る笑顔も作られているのが分かる。だからなのか、その目に見つめられると、つい本音を閉じ込めてしまう。
だって、もともと逸生さんに政略結婚の話を持ちかけたのは他の誰でもなく社長だ。そんな社長が、本当に私と逸生さんが結ばれることを望んでいるのだろうか。
もしかすると、社長は会長に頼まれて渋々このお見合いに出席しているだけなのかも。本当は、私がここで断るのを待っていたりして。
後ろ向きな考えが頭の中を支配して、どうすればいいのか分からず咄嗟に口を噤んだ。助けを求めるように逸生さんを視界に捉えると、沈黙の中、ぱちっと私達の視線がかち合った。
すると私の不安が通じたのか、逸生さんはふっと優しく目を細めると「紗良、大丈夫」とおだやかな声を紡ぐ。
「紗良の考えてることは、何となく分かってるよ」
「……」
「でも今は、紗良の本心を聞かせてほしい。俺は紗良の気持ちが知りたい」
──私の、気持ちは…。
あの日…逸生さんと過ごした最後の日。
たくさん逸生さんを傷付けてしまったことを、ずっと後悔していた。
過去を一緒に背負えないと言って、嘘を重ねて、彼から逃げて拒絶して。
愛想を尽かされてもおかしくないほど突き放したのに、逸生さんはまた私を見つけ出してくれた。
そして私だけでなく、お互いの両親にもこうして真っ直ぐに気持ちを伝えてくれた。ここまでしてくれた彼に、これ以上つく嘘なんてある訳なかった。
「紗良」
「……」
今度こそ、素直になっていいのなら
「…私も、逸生さんと一緒にいたい…です」
───もう二度と、この手を離したくない。