転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
言い終えたと同時、隣から聞こえてきたのは大きな嗚咽だった。ぐすっと鼻を鳴らし、ひたすらひとりで泣いている母の涙に、危うく釣られそうになる。
けれどなんとかこそは一旦スルーして、一番反応が気になる社長に恐る恐る視線を向ける。と、絶対に反対すると思っていた彼が微かに口角を上げて頷いているのが視界に入った。ずっと静かに見守っていた逸生さんのお母さんも、泣き崩れる母を見て笑っていた。
予想外のあたたかい反応に、目を丸くしながら再び逸生さんに視線を戻す。すると彼は、私と目が合った瞬間満面の笑みを浮かべ「俺も」と口を開いた。
「俺も紗良と一緒にいたい」
紗良、好きだよ──両親の前にも関わらず、さらりと甘い台詞を紡いだ彼は、屈託のない笑みで「もう逃げるなよ」と冗談交じりに続ける。
「逃げるわけ、ないじゃないですか」
「キャンセルも受け付けないから」
「…それは、こっちの台詞です」
つい数十分前までの絶望感が、嘘のような祝福ムード。信じられないほどの幸せに視界が滲み、咄嗟に俯く。
「…どうしよ。まじで嬉しい」
ぽつりと呟かれた声に、結局私は顔を上げる。その視線の先にいる彼は、やっぱり優しく目を細めていた。
彼の言葉に心臓を射抜かれ、笑顔に目を奪われる。そんな彼に釣られるようにゆっくりと口角を上げると、逸生さんは細めていた目を一瞬にして大きく開いた。
「紗良、それ…」
「…もう、隠す必要もないので」
久しぶり過ぎて、上手く笑えているのかは分からないけれど。ぎこちなく弧を描いた口元を見た逸生さんは「紗良が言ってた通り…これはヤバいわ」と困ったように笑った。
そんな私達のやり取りを静かに見ていた父は、ほっと安堵の息を吐いて、微笑んだ。